台本の内容の話ではありません。
この(オマケの)ページは、道具としてパソコンを使って芝居の台本を書く、という作業自体について、興味や試行錯誤の経験がある人にとってのみ、意味のあるページだと思われます。
ここには私(萬野)が、パソコンで台本を書く際の方法について書いてありますが、あくまで「ひょっとしたら何かの参考になる人もいるかも」という意図であり、決して「お奨め」するわけではないことをお断りしておきます。

結論から言うと

私は台本を(1)エディタでベタ打ちします(ベタ打ちと言っても下で述べるように多少のルール付けはあります)。
そしてそのテキストファイルを、(2)Perlスクリプトに通して、TeX のソースファイルに変え、(3)TeX にかけて dviファイルを作り、(4)そこから印刷出力します。
普段はここまでしかやりませんが、pdf にする必要のある場合は、(5)dvi から pdf を作ります(この説明で「なるほどね、了解」の方には、たぶんここから先にあまり目新しい情報はありません)。

以上のことを実現するために必要なアプリケーションは、エディタと、pdf を見るためのソフト以外には、

ということになります。

道具の簡単な説明

《 TeX 》

TeX は、文書を組版するためのフリーソフトです。
なぜ文書を「作成」と言わずに「組版」と表現するか。それは TeX が「商業印刷レベルに匹敵する高度なレイアウト調整が可能」を売りのひとつにしているからです。
文字が組まれた「版」を紙面に出すのが「出版」ということなわけですが、パソコンの文書をプリンタから印刷してもそれを出版と呼ばないのは、ひとつには「版を組む」にあたって出版界で長年守られてきたルールと美意識の蓄積というものがあり、それをパソコン上で踏襲するのがなかなかむずかしいことだからです。このむずかしいことをそれなりに実現しているのが Indesign であり、QuarkXPress であり、そして TeX であるというわけです。
フリーソフトという言い方だと、単一の ナントカ.exe というような実行ファイルがひとりで頑張っているイメージがありますが、TeX はフルで入れると膨大な数のファイルがインストールされ、どこでなにがどう動いているのか傍目にはさっぱりわからないという代物です。そういうものを世間一般では「システム」と呼びますので、「TeX とはフリーの組版システムである」ということになります。
萬野の現在の環境は、
pTeX 3.1415926-p3.1.11 (sjis) (Web2C/dev)
インストール方法等諸情報 http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/texwiki/
入手先 http://www.fsci.fuk.kindai.ac.jp/~kakuto/win32-ptex/web2c75.html
フルインストールです(*)。

(*)TeX のもうひとつの売りである数式は出てこない、索引や引用文献リストをつけるわけでもない台本という形式のためには、フルインストールはほとんど過剰と思われます。が、うまく動かなかったとき「ひょっとしてなにかが足りないせいではないか」という余分な懊悩をカットするためには、フルインストールしてしまうのがベターと判断しています。


《 Perl 》

TeX はコマンドラインアプリケーションであり、WYSIWYG ではありません。
html をエディタで手書きしたことのある方はおわかりと思いますが、TeX もそれと同様の、マークアップタイプの言語です。
これはすなわち、セリフの形式に出力するための命令 ¥serifu があったとして、



のようなことをしなければならないということです(実際にはこんな命令は自分で作らなければ存在しません)。
こっちは台本を書いているというのに、そんなかったるいことはやっていられないことは明らかです。しかしながら、テキストファイルの中において、もしすべてのセリフがたとえば



という単純なルールに従っているならば、これを一律に



に置き換えてやることは比較的容易にできます。
その他のト書きやタイトルやルビといった、台本に出現するすべての要素に関しても、記述のルールさえ決まっていれば、同様に変換処理が可能なはずです(なにをどのような手法で変換しているかについては、下にある Perlスクリプトの実物を覗いてみてください)。
この「あるルールで書かれた生のテキストファイルを、TeX が処理することのできるマークアップ済みのファイルに変換する」という置き換え作業を Perl にやらせているわけです。
要するにテキストファイルに対する変換フィルタを作ることができれば、sed でも awk でも ruby でもなんでもいいのですが、私がこの方式を模索し始めた1998年当時、もっともメジャーで情報が多かったのがたまたま Perl でした。
萬野の現在の環境は、
v5.10.1 built for MSWin32-x86-multi-thread / Binary build 1007 [291969]
入手先 http://www.activestate.com/Products/activeperl/
です。

《 dviware 》

テキストエディタで打った台本に対し、Perl でしかるべき置き換えを施し、それを TeX にかけると、拡張子 dvi を持つファイルが作られます。
これが TeX が生成する組版データです。
TeX というのは実になんとも潔い代物で、dvi を作る以外のことは基本的にはしません。
文字通り dviファイルを作るだけです。閲覧も印刷もできません
これは上で述べたように、TeX というものが「組版のためのソフト」であるということによります。TeX が生成する組版データとは、煎じ詰めれば「文字をどう並べるか」という位置データであり、それが最終的にどのフォントで出力されるかは、TeX 自体の関知するところではないというわけです。
そんなこと言ったって書いたもんが見られなきゃどうすんだ、ということで、dviware という種類の、dvi を表示・印刷するためのソフトが別途必要になります。
私の環境 ( WindowsXP SP3 )では、dviout for Windows というものがあります。
萬野の現在の環境は、
dviout for Windows Ver.3.18.1
入手先 http://akagi.ms.u-tokyo.ac.jp/dvitest.html
フリーソフトです。


具体的には

たとえば以下のように打ちます。エディタは慣れたものであればなんでもかまいません。
文字コードはShift-JISで打っていますが、特に強い理由はありません。



これは台本のタイトルやシーン名、人物名などが、まったくなにも決まっていない状態で、とりあえずセリフだけを打ち始めた状態、ということになります。
最初の2行、

だけは必須です。
「SCRIPT:」は、その台本の開始、「ACT:」は新しいシーンの開始を意味します。
このファイルを、上で説明したように「perlスクリプトで処理し、その結果を TeX にかける」と、下のようになります。



このキャプチャ画像が、上述した dviout for Widows です。通常はここからプリントアウトするので、作業は以上の繰り返しということになります。
dvi を pdf にする場合、dvipdfmx という(TeX に付属している)プログラムを走らせることになります。
結果が下です。




以上が、最小限の台本作成の流れですが、そのうちタイトルも決まり、登場人物の名前も出そろってくるでしょう。
それらすべてをフルセットすると、たとえば以下のようになります。



これを pdf まで持っていったものが下です。



このサイトに置いてあるすべての台本PDFは、以上の方法で作成されています。完成品の様子が知りたい方は「正規公演」または、「端物・未完・没原稿」へどうぞ。

終わりに

私は Perl や TeX といったツールのエキスパートではなく、たんに「パソコンで少しでもまともな体裁の台本を書きたい」と思ってきただけの素人です。
その目的で辿り着いたのがたまたまここだったというだけなので、この用途以外で TeX を使うこともありません(それはおそらく私が作る文書で、定型・大量という要素を持つものが台本だけ、という事情によります。チラシや企画書など、単発でレイアウトが不定のものなら、WYSIWYG のイラストレータ等が明らかに有利と思われます)。
ですので、ここにあげる Perlスクリプトや TeX の台本用スタイルファイルなどは、見る人がみれば冗長・稚拙以外のなにものでもないと思われます。
グランドデザインのようなものは皆無で、屋上屋を積み重ねるが如く、ありものを利用して、その場凌ぎで進化してきたようなものです。
とくに TeX のスタイルファイルについては、他のスタイルファイルとの併用ということをまったく考慮していないので、汎用性については完全に盲目的にできています。
私の環境ではこれで動いている、というだけのものとご承知いただければ、ここにあるスクリプト等はご自由にダウンロードしていただいてかまいません。


※この他に藤田眞作氏の furikana.sty が必要です。
(ルビなど振って役者を甘やかすようなことは一切せん!という向きであれば、不要)